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彼女からどんな返事になったとしても、僕は彼女と出会えてよかったと思っただろう。

回顧録

こともあろうか、緊張の糸が切れた僕は彼女の前で寝入ってしまっていた。

バーン!ドン!

急に外から大きな音が聞えてきた。

「ね、見て!花火が上がってるよ」

彼女の言葉に車の外に目をやる僕。
車の車窓越しにディズニーランドで打ち上げられた花火がキラキラ光って見えた。
車の窓を開けると、花火の音響が強く体に感じられた。
僕は花火じゃなく、花火の光に照らされた彼女の横顔をずっと眺めていた。

彼女の返事が【握手】であろうと思い込んでしまったら、今まで緊張していた肩の力が抜けて、何となくホッとしている僕がいたんだ。

「彼女に出会えてよかった」

本当にそう思った。
彼女はやっぱり僕には勿体ない相手だった。

彼女とはここで別れなければならないけど、まだ女性を好きになることが僕にも出来るんだ。
人を好きになるって、こんなにもどきどきすることなんだ。
そんな気持ちを教えてくれた彼女には感謝しなくちゃいけないな。
花火の光を見詰める彼女の横顔を眺めながら、俺はそんなことを思っていた。

でも、僕はそのとき気づいてなかったんだな。
相手が彼女だから、こんなにどきどきしていたんだってことを。

たぶんそんな理由をこじつけて自分自身に彼女を諦めるように暗示を掛けていたのかも知れない。

そして僕は僕自身の掛けた暗示にかかり始めたようだった。
飛行機と電車を乗り継いで、苦手な人混みにもまれながら彼女に会いに来た昨日、そしてずっとどきどきしっぱなして彼女と過ごした今日の疲れが、どっと出てきた感じだった。

そして、ここでやっと緊張の糸がぷつっと切れたのだ。

「疲れていない?」

僕は、それとなく彼女に聞いてみる。

「そうだね、ちょっとだけ疲れたね」

少し笑みをこぼしながら彼女は、そう答えた。

「ごめん」
「ちょっとだけ、休でもいいかい?」

俺は車のシートを斜めに倒して、横になった。

「長い距離を移動してわたしに会いに来てくれたんだもんね、疲れちゃったよね」
「大丈夫よ」
「少し寝ててもいいから」

彼女は僕の手をぎゅっと握り締めて笑った。

 

彼女の手に温もりに、

僕はすーっと夢の中に引き込まれた。

 

 

そして、彼女からの返事。

「はっ!」

僕は本当に眠ってしまっていた。

彼女は僕の手を握り締めたまま、静かに微笑んで僕の顔を覗き込んでいる。

「起きてたの?」
「ごめん、どれくらい寝ちゃった?」

慌てて車のシートをもとに戻す僕。

「うん」
「30分か40分くらいかな?」
「無理させちゃったね、ずいぶん疲れていたんでしょ?」
「イビキかいてたわよ」

笑いながら彼女はそう言って、握っていた僕の手を更に強く握り締める。

ぎゅっと彼女に握り締められた僕の手。

「あ、これが『ごめんなさい』の握手なんだ」

僕はそう理解した。

そりゃそうだよな、いくらなんでもデートの途中で寝ちゃう男って、どうよ?
しかも、初じめてのデートでだよ。
こんな醜態をみせたら、間違いなく百年の恋も冷めてしまうでしょ。

明日のこの時間には、僕はもう家に帰りついて子供らと夕食をとっている頃だろう。
夕食は子供らの大好きなオムライスでも作ってあげないといけないな。
彼女は明日は、娘ちゃんと昨日の埋め合わせの外食にでも出かけるのだろう。

僕も彼女も明日になれば、今日のことがなかったかのように、またいつもの子供らとの日常に戻っていくのだろうか?
彼女の手の温もりを感じながら、そんな寂しさを僕は感じてはじめていた。

僕の顔を覗き込んで笑っていた彼女の顔が急に真顔に変わった。

「ね、聞いて下さい」
「わたしの返事」

と、静かな口調で彼女が囁く。

「ひでじさん寝ちゃうから、寝顔にキスしようか悩んでたんだよ」
「でも、キスしたのを気づいいてもらえかなかったら、それは困るから」

「わたしも疲れてて一緒に寝ちゃいたかったんだけど」
「頑張ってひでじさんが起きるのを待ってたの」

そう言って、恥ずかしそうに顔を赤らめる彼女。

「え?」

驚く僕。

彼女は目を閉じて、僕の肩にそっと手を回してきた。

そして、彼女の唇の温もりが僕の体中に広がる。

いまでもその時の柔らかな唇の感触は、僕の脳裏にはっきりと残っている。
人を本気で「好き」になって唇を交わしたのは、或いはその時がはじめてだったのかも知れない。

時間が止まったように抱き合ったまま、僕と彼女は唇を重ねていた。

どれくらい時間だったのかな?
ほんの数秒だったに違いないが、何時間もずっと唇を交していたような、そんな感覚だった。

唇が離れ、ちょっとだけ頬が赤く染まった彼女のはにかんだ顔。
彼女は少し下をうつむき恥ずかしそうに笑い、

「これが、わたしの返事です」

僕は彼女のその言葉を聞いて、今度は自分から彼女を抱き締めそっと唇を重ねた。
花火が打ちあがる中、僕は彼女からの「Yes」の柔らかな返事を受け取った。

 

フラれるだろうと期待していた方、
ごめんなさい。

取り敢えず、僕と彼女は正式にお付き合いを始めました。

 

同じ夢を、一緒に。

その夜は、彼女の車の中で飛行機の時間前までずっと話し込んでいた。
これからどうやって付き合っていくのか、子供たちに二人の関係をどうやって伝えるのか。

そして、僕が子供らのもとへ帰る時間。
空港のゲートをくぐる僕を彼女は笑顔で見送ってくれた。

「行ってらっしゃい」
「気を付けてね」

「今度会うときは子供も一緒にね」

彼女は僕に笑いながらそう言った。

 

その日から僕と彼女の正式なお付き合いが始まった訳ですが、僕も彼女もこの日から半年を待たずに再婚するなんて思ってもいませんでした。

 

そうです。

僕が彼女に初めて会いに行ったのは9月。
そしてそれから僕らは何度かのデート(もちろん子供らも一緒)を重ね、翌年の4月には僕らは家族になったのでした。

回数でいえば会ったのは4回だったでしょうか。

5回目に彼女に会ったときには、彼女は彼女ではなく僕の妻になっていました。
そして彼女は僕の子供らの母親に、もちろん僕は彼女の子供の父親になっていたのでした。

 

 

僕は彼女から「キス」の返事をもらったとき、お返しのためにリングをプレゼントした。

以前ネットで会話していたときに何気にリングサイズを聞き出して用意しておいた。
もし「キス」の返事がもらえず「握手」だったときは、その場で捨てちゃても構わないやって思っていたんだ。
返事がもらえて時には、何か形として彼女に身に着けて欲しかったから。

ゴミにならなくてよかったよ。

僕はメッセージが刻まれたリングを彼女の指にそっとつけてみた。
刻まれた文字は、

「Same Dream」―同じ夢を―

果たして彼女が、その時どんな夢を持っていたか僕は知らない、そしてこの先どんな夢を求めていくかもわからない。
でも、お互いに求める幾つかの夢の中で、一つくらいは僕と一緒に目指す夢があってもいい。
その夢を叶えるまで彼女と歩いていきたいな。

そんなことを思っていた僕だった。

 

中途半端ですが、これで父子家庭恋愛編は終了となります。

次回からは再婚家庭編に突入いたします。

 

 

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