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女は子供を身籠った時に母親になるけれど、男は子供に育てられて父親になっていくんだ。

回顧録

その子は本当はあなたの子じゃない。

もし自分が大切に育ててきた子が、本当は自分の子ではなかったとしたら、あなたはどうしますか?

女性は自分のお腹を痛めた子供だから、その子が自分の子ではないということはありえないでしょう。もしそんなことが起こったとしたら、出産した病院のミスでしかありません。

でも父親の場合は、その子が本当に自分の子だなんてわかりません。愛する相手が産んだ子だから自分の子だと信じることでしかわからない曖昧な関係だったりします。もちろん血液型で概ね繋がりが確認できることはできますが、果たして本当に自分の子なのか。

父子家庭になった頃に僕の不安をかき立てていたことがあります。
それは、別れた妻が僕に家を追い出されたときに、捨て台詞のように最後に僕に吐いた言葉。

「あなたもおめでたい男だよね」
「自分の子でもないのに子供たちを引き取るなんて」

何の意図があって言ったのか、僕に追い出された苦し紛れの憂さ晴らしだったのか。

子供大好きな世のお父さん、

 

いきなりそんなことを言われたら、

あなたはどうする?

 

 

僕は乏精子症という既往を持っていた。

自分の子じゃないなんて、そんな馬鹿げたことを言われても普通なら気にも留めないだろう。冗談にしか思わない。でも僕は、その言葉で「まさか」と不安を掻き立てられる要素を持っていた。

僕は大学生の頃に40度を超える高熱を1週間以上続けたことがあった。熱の原因は不明でカルテには不明熱と書かれたが、僕の中では「野良猫親子の祟り事件」という記憶で残ってはいる。
この事件ついてはまた後日記事にしようと思う。

高熱を1週間以上も続けた若き日の僕。
成人男性が高熱を続けると生殖機能に支障があるくらいのことは僕も知っていた。

熱が下がった後に受診先の医師に検査を促された。

「ひでじさんは子供が好きですか?」
「君も知っているかとは思うけれど、成人男性がこれほど発熱が続いた場合、子供が作れなくなる場合があるんだよ」
「将来のためにも検査を受けておいてはどうだろう」

と。

子供が好きかと尋ねられたら、僕は間違いなく子供好きの部類の男に入るだろう。保育園の保父さんになろうと保育士資格を受験したくらいだからね。
地元の保育園に実習に行ったときも、男性の実習生は園が始まって以来の初のことだと言われたし、保育士の試験会場にも男は僕だけだった。今と違い、当時男性で保育士の資格を取得しようなんて考える方は多くはなかった。

それくらい子供好きではあった。

僕は医師の勧めを受け精液検査を受けることに同意した。
そしてその検査の結果、医師は僕にこう告げた。

「お子さんを自然に望むのは難しいだろう」
「造精機能障害からくる、乏精子症と考えられるよ」

 

乏精子症とは
乏精子症とは、精液検査で、精子の数が1ml中1500万を下回る状態をいいます(僕が検査した当時は2000万を下回ると乏精子症と診断されていました)。
精子の運動率や直進率、高速で可動率など、総合的に判断し、自然妊娠するには1ml中4000万以上が望ましいと言われています。
精子の数が少ない原因には、精索静脈瘤のほか、精巣の働きが悪く精子が造られにくい造精機能障害などがあげられますが、原因不明も多いのが現状と言われています。

 

僕の場合は1000万を下回る数値だった。

「でも、君より少ない方でもお子さんが出来た患者を私は知っているから気落ちしないで」

医師は僕にそんな慰めの言葉を掛けてくれたが、それでも自分の子が出来ないかも知れないと言う結果は、当時の僕をかなり落胆させた。

 

まだ若かった僕は、

かなり落ち込みましたよ。

 

 

女は子供を身籠ったときに母親になり、男は子供と一緒に父親に育っていく。

僕の子供ら、桜や幹と一緒に過ごし父親としての幸せを感じていた僕は、別れた妻の捨て台詞に、忘れていた自分の病気のことを思い出し、不安を掻き立てられた。

最初は何を言っているんだ?とか思ったけれどそれは、「まさか」という不安に傾く。

子供らが寝静まったあとに、二人の寝顔を僕は見つめていた。
二人の寝顔を眺める時間。それは僕の日課だったのかも知れない。一日の疲れが、子供らの寝顔で癒されれるんだ。

僕は二人の寝顔を眺めながら考えた。

僕の本当の子じゃなかったらどうだって言うんだろう?
今までの生活の何が変わるんだろう?
桜や幹の笑顔は僕を笑顔にしてくれるし、寝ている二人の寝顔は僕を癒してくれる。たとえ血が繋がっていないからと言って、それが変わることは何もない。

桜は僕を「ちち」と呼び、幹は僕を「とーさん」と呼ぶ。
二人にとって僕は間違いなく父親で、僕にとって桜も幹も間違いなく僕の子だ。僕はこの二人が生れて「父親」になれた。僕は父親として子供らを育てているけれど、僕を父親に育ててくれたのは、桜と幹二人の子供なんだ。

女は子供を身籠った時に母親になるけれど、男は子供らに育てられて父親になっていくんだ。
寝ている二人の髪を交互に撫でながらそんなことを思っていた。

それから僕は、別れた妻の吐いた捨て台詞を考えるのはやめた。血の繋がりがあろうがなかろうが、そんなこと子供らと僕には何の関係もない。
二人が僕と一緒にいることが何よりも一番大事なことで、

その事実が、

 

二人が僕の子であるという真実だから。

 

 

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