別れたことは、子供らにとって悪い選択じゃなかったのかも知れない。

回顧録

僕は学校での長女の様子が気になっていた。

父子家庭になっても子供らの様子はそれほど変わらなかった。相変わらず僕の前では「母親」のことは話題にしない桜と幹だったけど、学校での様子が気になった。

櫻の通う小学校には、学期ごとに希望者のみ担任の先生との2者面談が予定されていた。運動会が終わって、つまりは僕が子供らの母親を追い出してから、暫く立った頃に、僕は2者面談の申し込みをしてみた。

僕は登校する桜に茶封筒に入れた面談申込書を渡し、担任の先生に出すようにお願いした。

数日すると、桜は先生からの返事を持って帰ってきて、2者面談の日取りが決まった。僕は担任の先生に放課後に1時間ほどの時間を取って頂いた。

学校での様子を聞いてみたが、桜は全く変わりなく過ごしているという。
宿題も忘れずに提出するし、お友達とも仲良く過ごしていて、これといった問題もない様子だと担任の先生は学校での出来事を話してくれた。

「何か気になることがありますか」

担任の先生が僕の顔をのぞき込みながら、そう尋ねてくる。

「もしかして」
「私の勘違いだったら申し訳ありませんが」

と前置きして担任の先生は、声を小さくした。

「ご家庭で何かありましたか」
「お母様のこととか」

担任の先生からの言葉に少し驚いた僕。

「桜が何か言ってましたか」

先生に聞き返した。

 

やっぱり、

学校での生活には変化があったのだろうか。

 

無意識に絵に表われいた長女の気持ち。

担任の先生は、やっぱりそうか、という顔をして、

「図工の時間に桜さんの描く絵が、違ってきていたので」
「もしかしたら何かあるのかもと思っていました」

担任の先生が言うには、新学期が始まった小学校に入りたての頃、図工の時間に桜が描く絵には必ず4人が揃っていたけれど、2学期を過ぎた頃から、桜の描く絵から母親の姿が消え、僕と桜と幹と3人が描かれた絵に変わっていたという。

気になって一度だけ、

「お母さんは描かないの」

と言ったときに桜が無言になったことがあったと、先生は話してくれた。

僕は離婚して父子家庭になったことを担任の先生に伝え、学校で桜に変わったことがあったときは、すぐに連絡をしてくれることと、母親がいなくなったばかりなので不安定になるかもしれないので注意してみて欲しいことをお願いした。

「桜さんは強い子だから大丈夫ですよ」
「それにお父さんのことを大好きだから、きっと頑張れますよ」

担任の先生はそう言って僕を励ましてくれた。

そして、担任の先生は最近桜の描いた絵を数枚見せてくれた。
確かにその絵には僕と桜と幹の3人が仲良く手を繋いで公園で遊んでいる姿が描かれていた。

担任の先生は、

「比べてみて下さい」

と言って、新学期が始まったころに母親も一緒に描かれていた絵を並べてくれた。

 

絵を見比べて、

僕は、はっと驚かされた。

 

もしかしたら、桜にとっては今の生活の方が楽しいのか。

3人で手を繋いでる絵は三人ともニッコリした笑顔の表情で描かれていたが、4人で描かれた絵は、むすっとした表情で口がへの字口で描かれていた。
どの絵も同じで、4人で描かれた絵は口をへの字にしたつまらない表情が描かれていた。

担任の先生は静かに僕に告げた。

「桜さんは、笑うようになりました」
「一学期の初めの頃よりも、今の方が笑顔をよく見せるようになりました」

その言葉が僕には嬉しかった。
そして、桜の描いたその絵が嬉しかった。
家では変わらない様子の桜だったけれど、きっと僕と別れた妻がいつも険悪なムードでいたあの頃よりも、3人で過ごしている今が、桜にとって笑顔になれる環境なんだということが、ようやくわかった。

別れたことで、僕は子供らに悪いことをしたと、ずっと悔やんでいたけれど、もしかしたら子供らにとって、別れたことは悪い選択じゃなかったのかも知れないと、そう思ったんだ。

僕は担任の先生にお礼を言って、教室を後にした。

 

僕は子供らの待つ家に意気揚々と帰った。

 

 

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