女性と二人っきりで食事をしたことなんて、何年ぶりだっただろうか?
「お腹空いたでしょう、何が食べたい?」
ハンドルを握りながら、彼女が尋ねてきたが、僕は運転する彼女の横顔をボーッと眺めていた。
「あ、何でもいいよ」
極度の緊張で食欲なんか失せてしまっていたんだな。
何とも優柔不断な返事を返してしまった僕。
「じゃ、パスタにしようね」
けれども彼女は、そんなこと気にする素振りもなく、お勧めの店へと僕を案内した。
お店に入り、僕は彼女と向かい合わせで腰掛けた。
ここで、初めて僕と彼女はお互いにしっかりと顔を合わせることになった。
照れくさそうに笑う彼女に、
「ドキュン!」
狙い撃ちされた感じだ。
お互い顔を見合わせると、さっき車の中ではスムーズにはずんでいた会話も途切れる。
暫く沈黙が続いたが、
「ごめんなさい」
彼女が急に謝ってきたんだ。
「ごめんなさい、実は私、去年まで付き合っていた人がいたの」
「もちろん、もう別れてしまったんだけど、今まで話題にも出さなくて」
彼女はうつむき加減に、そして申し訳なさそうな顔で僕を見つめた。

彼氏いたんだ。
そりゃそうだろうな。
彼女の正直なところに、僕はますます惚れ込んでしまったんだ。
そりゃ、そうだろう。
例え、バツイチ子持ちであっても恋愛ぐらいする。
彼女くらいの器量。僕にはもったいないくらいなんだから、当然そんな男性が他にいてもおかしくはない。
「それでも、大丈夫?」
覗き込むように、僕に尋ねる彼女
何が「大丈夫?」なんだろうか?
別れてしまっているんなら何の問題もない。二股掛けられているわけでもないんだし、そんなもん、大丈夫に決まってるじゃないか。
どうやら、彼女は僕に対して隠し事をしていたと言う自責の念があったらしく、僕に会ったときには、これだけはちゃんと最初に話しておこうと思っていたらしい。
ホッとした顔つきの彼女の笑顔に、ますます惚れ込んでしまった俺だった。
食事の後、暫くドライブしながら会話を楽しみ、ホテルまで送ってもらった。
明日の正式なデートの待ち合わせ時間を確認して、彼女は自宅へと帰って行った。
部屋に入ると、緊張の糸が「プツン」って感じだった。
ベッドに倒れ込む僕。
何だか緊張しっぱなしで少し疲れたみたいだ。
取り敢えず、前哨戦は終わった。
彼女は僕に対しての第一印象をどう感じたのだろう?
さあ、いよいよ明日は本番だ。
なんか女性と二人っきりでデートなんて、食事をするよりも久しぶりなんだな。
やばい、また緊張してくるぞ。
そして明日のデートが終われば、その翌日はもう家路へと向かうことになる。
実は、僕は彼女とある約束をしていた。
そうそれは、

僕と付き合っていくかどうかの返事。
Yes or No その返事は、「キス」か「握手」の選択肢。
「僕の方から断ることは絶対ないよ」
宣言どおり、僕から断る理由は何もなかった。
ルックス、スタイル、性格(これはまだわからないことが多いけれど)、彼女は見事に僕のストライクゾーンを捕らえていた。しかもど真ん中。
しかし、彼女の方はどうなんだろう?
車に乗っているときには、手を握って欲しいと言ってくれた彼女。
過去の男性のことを正直に僕に告げて、大丈夫か尋ねてきた彼女。
もしかして期待してもいいのかな?
「もし、お断りするときは何て言ったらいい?」
会う前に彼女に、そんな最悪のパターンを尋ねられたことがあった。
彼女からのそんな質問に、そんなこと聞くなよなーとか思っちゃったけれど、
「お断りのときは」
「キスして、さよならにしよっか?」
彼女が冗談まじり(本気だったようですが)でそう言った。
「やだね、キスなんかされたら、すっごく未練が残っちゃうよ」
他人がどうかは知らないが、僕は「キス」ってものを特別なものと考える男なのだ。
乙女チックな感覚だと笑われるかもしれないが、僕はセックス以上にキスを大事だと思う変な奴なのだ。
その兆候はこの記事とか、

そしてこの記事とか、

更にこの記事からわかるでしょ。

だから、ジュースの回し飲みなんていう間接キッスさえ抵抗がある。(潔癖症ではないっす)
そこで、僕は彼女に提案した。
「僕と付き合ってもいい」と思うなら、僕が帰るまでに『キス』。
「お断りしたいな」と思ったら、帰るときに『握手』でさよなら。
彼女は僕からのそんな提案を受けてくれていたんだ。
さてさて、どうなることやら。
なんか、彼女のそっけない態度は『握手』の予感を感じさせるんだよな。
そんなことを考えながら、

いつのまにか夢の中に落ちていく、
僕だった。
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